薬ではなく、“人とのつながり”を処方する

お酒やタバコよりも、孤立や孤独のほうが人の健康に影響を与える——。こんな研究結果(*1)が発表されて以来、世界的に孤立・孤独の課題に取り組む活動が活性化しています。

その中でも、1980年代にイギリスで発祥した「薬で人を健康にするのではなく、人と社会資源とのつながりを利用して、人を元気にする仕組み」である「社会的処方」は、世界的に広がりを見せていて、日本でも、厚生労働省による「経済財政運営と改革の基本方針」(「骨太方針」)で孤独・孤⽴対策として、「社会的処⽅」が明記されました。今は馴染みのない言葉でも、今後はどこかで耳にする機会があるかもしれません。

「社会的処方」というと難しいことのように聞こえますが、まちの商店やスナックだって、公園や図書館だって、さらには野に咲く一輪の花さえも、誰かの居場所になっていたり、誰かの心を元気にしていたり、社会的処方のひとつと考えることができます。

また、おくすりを飲んでも元気にならなかった糖尿病患者さんが、山登りのコミュニティに通いだして元気になった、パートナーを亡くした男性が、麻雀教室に通い始めたものの口数が少なかったけれど、高校生に麻雀を教えはじめてから、笑顔が増え、よくしゃべるようになったなど、人とのつながりが実際に健康につながっている例もあります。

人は、自分の得意なことや好きなことを生かすことや、与えられるだけじゃなくて誰かに何かを「与える」ことで、深い喜びを見出し、生き生きしたりします。

暮らしにアートを処方する、「文化的処方」

「文化的処方」とは、日本ではまだ生まれたばかりの言葉で、社会的処方の中でもより文化にフォーカスし、文化・芸術の力を生かし、人々との間につながりをつくる文化活動です。

本冊子は、その活動を広めるためのガイドブック。

中面では、「文化的処方」のさまざまな活動を紹介しています。

写真家・幡野広志さんによるフォトストーリーでは、私たちの身の回りにある何気ない文化的処方のある風景を切り取ってくださいました。

「文化的処方」にまつわる用語説明、自分の「好き」や「得意」を生かす方法など、実際に文化的処方の活動をはじめるためのステップなどを紹介しています。

「文化的処方のはじめの一歩」の表紙
冊子『文化的処方のはじめの一歩』日本語版、英語版の表紙

また、冊子『文化的処方のはじめの一歩』は、英語版も作成しました。文化、芸術といった、日本語でも言語化が難しいニュアンスを丁寧に翻訳していただきました。

*1:Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB. (2010). Social relationships and mortality risk: a meta-analytic review. PLoS Med, 27;7(7): e1000316. journals.plos.org


●小冊子『文化的処方のはじめの一歩』日本語版、英語版
P36/フルカラー/A5サイズ/各所にて配布、WEB公開
*以下、ウェブマガジン「ああともTODAY」より、無料で閲覧・ダウンロードいただけます。
日本語版:https://aatomo.jp/wp/wp-content/uploads/2025/03/bunka_DL-2.pdf
英語版:https://aatomo.jp/wp/wp-content/uploads/2025/08/en_guidebook.pdf

監修・執筆:
西智弘(医師、一般社団法人プラスケア代表)、伊藤達矢(東京藝術大学 社会連携センター教授)、稲庭彩和子(国立アートリサーチセンター 主任研究員)、福本 塁(長岡造形大学 地域協創センター長/東京藝術大学 客員教授)
企画・制作:一般社団法人プラスケア
表紙・巻頭画:山口洋佑
デザイン:郡司龍彦
写真:幡野広志、阿部 健加瀬健太郎西岡 潔
原稿:兵藤育子、薮下佳代
翻訳:Yuko Ochiai, Elizabeth Oswald, Clementine Nuttall and Kaoru Sasaki
進行・編集:落合由有子、森 若奈(三三社)、飯嶋健司(株式会社 kushami)
発行元:東京藝術大学「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」、独立行政法人国立美術館 国立アートリサーチセンター
発行:2025年3月3日 *その後2回増刷