“読む”団地

約20年も前から、駅から遠いけど改装自由や眺望のいい物件、古いけど味のある古民家、部屋よりもベランダが広い物件など、マニアックな物件を紹介し、住居の自由を提案してきた「東京R不動産」。2017年3月、そんな東京R不動産が注目していた「団地」の本の編集を担当させてもらいました。

映画やメディアの影響により、以前よりポジティブなイメージが浸透しはじめているものの、 無機質やレトロといった固定化されたイメージも強く、その背後にある、豊かな緑、子育て環境やコミュニティなどの本質的な魅力が伝わっていなかった「団地」。

そこで、風景やにおいが記憶の片隅に残り、住まいを選択するライフステージでふと、団地が呼び起こされるように、“物語”を通じて団地を伝えることができないかと、この書籍を企画しました。

小説、詩、漫画、エッセイ、対談などを通じ、情報として“知る”のではなく、物語を通して団地を体感してもらう。一見同じ部屋が並んでいるかのように見える団地だからこそ、それぞれの物語がいきいきと浮かび上がってきました。


《コンテンツリスト》
■小説「マーリカの手記~一年の留学を終えて~」山内マリコ
団地好きユニット「団地団」の団員でもある山内マリコさんが「団地史に残る短編を書かねば」と書き下ろしてくださった短篇小説。エストニアから短期留学で来日した主人公が、団地での1年を分析的な視点で振り返る、微笑ましいストーリー。

■詩「ぼくらの心臓の間取りは」最果タヒ
詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(リトル・モア)が、2017年5月に映画化(監督・脚本/石井裕也、主演/石橋静河・池松壮亮)されるなど、注目の詩人・最果タヒさんによる描き下ろしの詩を4篇収録。イラストは、大島智子さん。

■フォトエッセイ「巡る団地」茂木綾子(写真家)
写真家・映画監督の茂木綾子さんは、団地育ちだけれど、団地に対してはネガティブな印象を持っていました。そんな茂木さんが団地を出てから25年の歳月が経った今、団地に暮らすある女性を訪ねました。彼女は団地を舞台にした漫画『サザンウィンドウ・サザンドア』(祥伝社)の作者で漫画家の石山さやかさん。石山さんは住環境が気に入って3年前から団地に住んでいます。時代が流れ、暮らしが変わる。団地を巡る、時と人の流れを写真と文で綴ります。


■対談「共同体だからできること」ジェーン・スー × 佐々木俊尚
マンションほど他人行儀ではなく、シェアハウスよりもゆるやかなつながりを持てる「団地」という住まいには、未来の暮らしを形づくるためのヒントが隠されてる。実践的な視点で世の中を見据え、コラムニス ト、ラジオパーソナリティーとして活躍するジェーン・ スーさん、ITから食文化まで幅広い分野に精通し、社 会と暮らしの関係をひもとく著書を発表しているジャ ーナリストの佐々木俊尚さんにお話を伺いました。インタビューは岨手由貴子さん。


■インタビュー「間取りのあしどり」菊池亜希子
女優、モデルとして活躍する菊池亜希子さんは小学校低学年の頃には、砂の上に図面を描いてままごとをしていたというほどの間取り好き。そんな菊池さんに間取りの変遷をたどりながら理想の住まいについてお話し頂きました。インタビューと合わせて、団地を舞台に菊池さんを撮り下ろしたフォトストーリーを収録。撮影は濱田英明さん。


■小説「向かい合わせの二つの部屋」松田青子
『おばちゃんたちのいるところ』(中央公論新社)も好評の、団地に住んだことがある松田青子さんによる、向かい合わせの部屋に暮らす、同じ名前を持つ二人の女性の物語。団地の部屋と住人の関係性が絶妙な距離感で描かれる。


■写真 黑田菜月
2013年に第8回写真「1_WALL」グランプリを受賞した、写真家の黑田菜月さんによる光と緑が印象的な団地フォトストーリー。


■漫画「P」「P+6」カシワイ
ウェブ漫画サイト「トーチweb」で連載した作品をまとめた単行本『107号室通信』(リイド社)を2016年に刊行し、注目の漫画家カシワイさん。本書では独特の浮遊感が印象的な描き下ろし2篇(前・後編)を収録。


■アートワーク Noritake
モノクロドローイングを軸に広告、書籍、雑誌、ファッション、壁画など国内外で活躍する人気イラストレーター・Noritakeさんによる表紙回りのアートワーク。

*上記紹介文は、2017年3月時点のものです。


●書籍『団地のはなし/著:東京R不動産
アートディレクション:大島依提亜
企画・編集:森 若奈
発行:青幻舎
発行日:2017年3月22日